サイモン・マッカーシー=ジョーンズ 著『悪意の科学』(2023)インターシフト
原題は「SPITE」でin spite of ~ にも関わらずのspite。「悪意」と言っても通常使う悪意の意味とは少しずれています。
Table of Contents
本書のあつかう「悪意」
事故と他者の双方に害を及ぼす悪意のある行動(P.8)
とあるように本書のあつかう「悪意」は、他者へ不利益をもたらす行為のうち自分にも不利益がある行為です。
他者のみ利益 | 双方に利益 |
双方に不利益 | 自分のみ利益 |
上段は他者に利益、右側は自分に利益。
最後通牒(つうちょう)ゲームで少額提示を断る場合
最後通牒ゲームは一定のお金を2人で分け合うゲームです。まず一人目がいくらで分け合うかを決めます。次に、二人目がOKしたら提示の金額を双方がもらえます。もし、二人目がNoと返事をすると双方お金をもらえません。
二人目の心理を場合分けすると面白いです。たとえば、提案が山分けだった場合はOKするでしょう。では少しだけ2人目の取り分が少なかったら?もっともっと少なかったら?
お金をもらえないより1円でももらえた方が利益になるにも関わらず、あまりに分け前が少ないとNoと言ってしまう気がします。これが本書であつかう「悪意」です。
分け前が少額で不公平だからNoという2パターン
不公平と感じるには2パターンあります。(少ししかもらえない)と感じる場合と(多くもらえない)と感じる場合です。
最後通牒ゲームをアレンジした独裁者ゲームでどちらのパターンかを調べることができます。最後通牒ゲームでは分け前に対してNoと言えましたが、独裁者ゲームでは拒否権がありません。提案のまま分けることになります。
そのため(少ししかもらえない)と感じた人は公平に半分ずつの山分けを提案し、(多くもらえない)と感じた人は相手に少額を提案する傾向があります。
悪意も使いよう
本質的に人間は誰かに「そんなことは不可能だ」と思われると、悪意のある反応をしがちだ(P.143)
とあるように、大統領選挙・自爆テロ・ブレグジットなど確かに「悪意」が関わっていると説得されガッカリしてしまうかもしれません。
それでも著者は、カーネマンらが「不正な行為をする企業に対して顧客が悪意を向ければ、利潤の災害化を目指す企業は公正な取引をするようになる(P.230)」との指摘を述べ、相手ではなく相手の特性に使う慈悲のある悪意は生活を向上させると結論します。